美腸整活コラム

Column
白根歯科クリニック院長 白根和明先生に聞く「歯磨きとむし歯と病気の関係」
2023.02.22

白根歯科クリニック院長 白根和明先生に聞く「歯磨きとむし歯と病気の関係」

口の中を歯磨きなどで守ることを「オーラルケア」といい、最近、テレビCMなどでよく耳にします。今回は、石川県金沢市で白根歯科クリニックを開業する白根和明院長に、オーラルケアの基本や最新研究について伺いました。

基本は毎食後の歯磨き
オーラルケアとオーラルフレイルの関係

むし歯を防ぐために欠かせない歯磨き。1日1回だけ磨くという人もいれば、朝晩2回、食後3回など、歯磨きの回数は人によって違います。では、1日何回がよいのでしょうか?白根歯科クリニックの白根和明院長に伺ってみました。
「歯磨きは、食後とおやつを食べたあと、そして、寝る前にも行うのが理想的です。私たちの命をつないでいる食べ物は口から入り、噛むことで消化が始まっています。よく噛むことで、胃腸やすい臓などの消化器官への負担も減り、脳の刺激にもなるので認知機能の低下の予防にも役立ちます。ですから、自分の歯を守ることは、健康維持に直結するのです」

人生100年時代を迎え、多くの人がウォーキングや筋トレなどで身体的な老化予防に努めている昨今。オーラルケア(口腔ケア)もそれと同じように欠かせない健康習慣というわけです。

では、口の中の環境悪化は、からだにどんな悪影響をおよぼすのでしょうか。
「むし歯や歯周病などによる歯の喪失、舌や喉の筋力低下、唾液の分泌量の低下などが原因で起こる口腔内の機能低下のことをオーラルフレイルいいます。オーラルフレイルは高齢になるほど発症しやすいのですが、若くても口腔内の環境が悪いと発症します。オーラルフレイルになると、食事がとれにくくなり、栄養不足で免疫力の低下を招きます。ですから、どの世代の方も、オーラルケアはしっかり行ってほしいですね」

コロナ禍が収束しないなか、免疫力の低下は避けたいもの。感染予防のためにも歯磨きは重要といえそうです。

  • ・口の中が汚れていると、むし歯や歯周病の原因になる。
  • ・口の中の環境悪化で、オーラルフレイル(歯を失う・下や喉の筋力低下・唾液が減る等)に。
  • ・オーラルケアを怠ると免疫力の低下を招き、感染症にもかかりやすくなる。

からだに悪さをする口腔内の悪玉菌
オーラルフローラのバランスを整えて快適な毎日を!

口の中には、約700種類、100億個ほどの菌(常在菌)がすみついていると考えられています。口の中の菌(口腔内細菌)も腸内細菌と同じように、からだに有用な働きをする善玉菌、からだに害を及ぼす悪玉菌、善玉菌と悪玉菌のどちらか一方の勢力が強くなると、強いほうに味方をする日和見菌に大別できます。そして、これらは菌の種類ごとに集まり、グループを形成しています。腸内細菌の場合は、それの様子が花畑のように見えることから「腸内フローラ」といい、口腔内細菌の場合は「オーラルフローラ」といいます。

再び白根先生に伺ってみましょう。
「オーラルフローラの理想的なバランスは、善玉菌20%、日和見菌70%、悪玉菌10%です。このバランスが整っていると、ウイルスや細菌などの病原体が口の中に入ってきても、防御しやすくなります。腸内フローラにも同じような役割がありますが、腸内に病原体が入る前に口の中で防御できるので、オーラルフローラのバランスはとても重要です」

オーラルフローラを良好な状態に保つには、むし歯や歯周病を防ぐこと。しかし、加齢や病気などで体力が低下したり、殺菌力の強い洗口液を使い過ぎたりすると、オーラルフローラはバランスを崩します。そして、悪玉菌の勢力が強くなり、病原体に対する防御力が低くなってしまいます

  • ・理想的なオーラルフローラのバランス=善玉菌20%、日和見菌70%、悪玉菌10%
  • ・歯磨きでむし歯・歯周病などを防ぎ、オーラルフローラのバランスを保つ。

肥満や生活習慣病も招く
むし歯菌・歯周病菌・口腔カンジダ菌

悪玉菌は種類が多く、総称して次の3種類に分けられます。
①むし歯の主な原因となるむし歯菌
②歯周病を引き起こす歯周病菌
③口腔カンジダ症の原因となるカンジダ菌

これらの悪玉菌が口の中にたくさんいる状態で何かを食べたり飲んだりすると、悪玉菌の一部が胃や腸に運ばれてしまいます。また、口内炎や歯肉炎などによる小さな傷口から血管を通じて体内に侵入するケースもあります。
「悪玉菌は体内に入ると、肥満や生活習慣病の一因になるなど、健康に悪影響をおよぼすことが最近の研究でわかってきました」

こう話す白根先生は、新潟大学歯学部大学院でカンジダ菌などを研究し、口腔内の悪玉菌が健康に及ぼす害について早くから提唱していました。
「口腔内の悪玉菌によって引き起こされる病気は、知られているだけで誤嚥性肺炎、動脈硬化、脳梗塞・脳出血、心臓病、糖尿病、肥満、早産、低体重児出産などがあります。さらに、悪玉菌が腸内に入り込むと、腸内フローラのバランスが崩れてしまうため、免疫力の低下に加えて、うつ病や認知症など脳の機能低下も誘発してしまう恐れがあります」

次に、口の中のトラブルと健康について、具体的に見てみましょう。

  • ・悪玉菌:むし歯菌、歯周病菌、カンジダ菌
  • ・悪玉菌が体内に入ると、肥満、糖尿病、動脈硬化など生活習慣病の原因になる

「むし歯菌」で認知症のリスクが高くなる!?

「俗に言うむし歯は、正確にはミュータンス菌といいます。最近の研究で、この菌の一種のcnm陽性ミュータンス菌が、脳出血を引き起こすことがわかってきました」

口の中にいるはずのむし歯菌が脳出血の原因になるとは、どういうことなのでしょう?
「国立循環器病研究センターと大阪大学大学院、慶應大学医学部などによる共同研究チームが3年ほど前に発表した研究成果です。研究では、cnm陽性ミュータンス菌を保有していると、脳内の細い血管が破れてごく少量の出血がおこる微少脳出血をおこしやすいということが分かりました。微少脳出血は自覚しにくいのが特徴で、出血箇所が徐々に増え、認知症のリスクも増大していきます」

日本人の5人に1人がこのcnm陽性ミュータンス菌を保有している可能性があるとか。しかし、まだ研究の初期段階で詳しいことが分かるのはこれから。今できる効果的な予防方法は、やはり毎日の口腔ケアです。

  • ・むし歯菌は脳内で小さな脳出血を起こし、認知症のリスクを大きくする可能性がある

「歯周病菌」を減らして腸内環境を調える

では、次に歯周病菌対策について教えていただきましょう。歯周病菌は多ほとんどのひとの口の中に潜んでいるといわれ、歯周病の原因菌です。
「歯と歯ぐきの境目は歯垢や歯石がたまりやすく、歯周病菌が繁殖しやすい環境です。歯周病菌が増殖すると、歯ぐきが下がったり、歯ぐきに炎症が起こったりします。これが初期段階で、悪化すると歯を支えている骨まで溶かしてしまい、歯がぐらつくようになります」

困ったことに、歯周病は気づきにくく、悪化させてしまうケースことが多いそうです。さらに、歯周病菌は歯ブラシで歯ぐきを傷つけたり、歯肉炎などがあったりすると、その傷口から血管を通じて全身に運ばれ、糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞、早産・低体重児出産、肥満などを誘発することが知られています。ところが、最新研究で新たな問題が見えてきました。
「2020年に新潟大学歯学部で行われた研究で、唾液を飲み込んだとき歯周病菌が一緒に胃腸に入ってしまうと、腸内フローラのバランスを崩してしまうことが分かりました。つまり、腸内環境が乱れてしまうのです。その結果、免疫力低下はもとより、抑うつ気分、認知機能の低下など脳の機能にも悪影響がおよびます」

口腔内環境と腸内環境。口も腸も消化管の一部なので、双方を合わせて「消化管環境」ととらえることが、健康維持・健康長寿のためには必要なのかもしれません。

  • ・歯周病菌が腸内環境悪化の一因に
  • ・腸内環境と口腔内環境の両方を守ることが健康維持の秘訣

口の中のカンジダ菌vs.胃の中のピロリ菌

白根先生は、クリニックを訪れる患者さんの治療経験から、こんな発見もあったそうです。
「胃の中のピロリ菌の除去治療を受けたという患者さんを診て発見したのですが、口腔内にカンジダ菌が多い方は、ピロリ菌を完全に取り除けないケースが多いのです。ピロリ菌とカンジダ菌には何らかの相関関係があると推察できます」

カンジダ菌は舌苔に多くすみついています。白根先生は、舌苔歯ブラシを使って取り除くよう指導した上で、カンジダ菌がどのくらい残っているか検査を行っています。そして、カンジダ菌が多く残っている患者さんには、消化器内科でピロリ菌の検査を受けるようお伝えしています」

正しい歯磨きは、歯ブラシと歯間ブラシを使うのが基本。そして、舌苔ブラシも1本用意して、舌の掃除も欠かさず行いましょう。

  • ・胃内のピロリ菌の完全除去治療がうまくいかない場合は、舌苔のカンジダ菌にも目を向ける
  • ・口腔内のカンジダ菌が多いときは、胃内にピロリ菌が潜んでいる可能性もある

口のニオイは「カンジダ菌」のせい?

カンジダ菌は皮膚、腸管、膣、口腔内などにすむカビの一種です。口腔内にいるカンジダ菌は舌苔に多くすみついています。唾液の分泌量が減って口の中が乾いた状態になることを「ドライマウス」といいますが、口の中が乾いていると増殖しやすいという特徴があります。さらに、糖尿病やがんの治療中などで免疫力が落ちているときにも増殖しやすくなります。

カンジダ菌は舌がピリピリ、ヒリヒリと感じる舌痛症の一因ともいわれるほか、カンジダ菌が混じっている唾液が誤って肺に入ってしまうと、誤嚥性肺炎を誘発します。しかし、それだけではありません。
「私は長年、口臭の研究を続けていますが、口臭に悩む患者さんの舌苔を調べると、カンジダ菌が非常に多かったのです。口臭はむし歯や歯周病でも起こりますが、そうした問題がない患者さんも、カンジダ菌が多いと口臭があるということが分かりました」

白根先生は、ドライマウスの研究で先行する鶴見大学歯学部の斎藤一郎名誉教授のグループの発表に注目したといいます。
「齊藤先生のグループの研究では、EF-2001という種類の乳酸菌が口腔内のカンジダ菌の増殖を抑える作用があり、ドライマウスの治療に役立つことが分かったそうです。そこで、EF-2001乳酸菌を主成分とする『ベルムア150』という製品を、カンジダ菌があり、口臭のきつい50歳以上の患者さん数名に使ってもらいました。この製品は小さな粒状で、寝る前に口にふくんでもらい、唾液で溶かして飲み込むよう指導しました。1週間後、患者さんたちの舌苔を調べると、カンジダ菌がほとんど消えているか、半分以下まで減っていました」

口臭はどうだったのでしょう?
「もちろん口臭も消えていました。また、朝起きたときにありがちな口の中のネバネバ感も減るという感想も多く聞かれました。わずか1週間でこんな成果が出るとは予想外で、患者さんに喜んでもらい、私としてもやりがいのある試みでした」

口は食べ物の入口。食べ物は命のもとです。EF-2001乳酸菌を口腔内の健康維持に役立てることで、いつまでも自分の歯で美味しく食べて、健康長寿を目指してはいかがでしょう。

  • ・カンジダ菌はドライマウスや口臭などの原因
  • ・EF-2001乳酸菌を主成分とする『ベルムア150』がドライマウスに効果があると判明
  • ・寝る前の『ベルムア150』習慣で口腔内のカンジダ菌が減り、口臭改善に役立った

この記事の執筆者

このコラムの執筆者

白根 和明Kazuaki Shirone

医療法人 白根会
白根歯科クリニック 理事長
北陸口臭予防医療センター センター長

岩手医科大学歯学部を卒業後、新潟大学歯学部大学院医歯薬総合研究科口腔健康研究科学講座予防歯科学教室にて口臭の研究や口臭測定器の開発研究に携わる。2006年に現クリニックを開業。日本抗加齢医学会専門医、ドライマウス研究会認定医、岩手医科大学歯学部非常勤講師。テレビ、新聞等でも活躍中。